大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第三小法廷 昭和38年(オ)1112号 判決

上告人

田中とき

代理人

松原正交

被上告人

毛利晴代

代理人

井上準一郎

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人松原正交の上告理由第一点ないし第四点について。

建物が滅失した後、その跡地に同様の建物が新築された場合には、旧建物の登記簿は滅失登記により閉鎖され、新建物についてはその所有者から新たな所有権保存登記がなさるべきものであつて、旧建物の既存の登記を新建物の右保存登記に流用することは許されず、かかる流用された登記は、新建物の登記としては無効と解するを相当とする。けだし、旧建物が滅失した以上、その後の登記は真実に符合しないだけでなく、新建物についてその後新たな保存登記がなされて、一個の不動産に二重の登記が存在するに至るとか、その他登記簿上の権利関係の錯雑・不明確をきたす等不動産登記の公示性をみだすおそれがあり、制度の本質に反するからである。

原判決の確定した事実によると、本件建物は、訴外須山貞男が昭和三三年六月中旬頃その敷地上にあつた同人所有の従前の建物を取り毀し、同年七月末頃その跡地に建築した新建物であるのに、右須山は右のように取り毀した旧建物について滅失登記をせずに、旧建物の同人所有名義の登記をそのまま新築した本件建物に流用して、上告人のため昭和三四年一一月七日停止条件付代物弁済契約に基づく所有権移転請求権保全の仮登記ならびに昭和三五年三月二二日代物弁済を原因とする右仮登記に基づく本登記をなしたというのであるから、このような登記は、新建物に関する登記としてはいずれも無効であり、また、右旧登記の流用の際、表示の変更登記により登記簿の表題部が新築建物の構造・坪数と合致するように変更されたとしても、かかる登記の効力は認めがたいとした所論原審の判断は正当である。これと異なる見解を前提とする所論は、いずれも採用できないし、また、論旨援用の各判例は、本件と事案を異にし適切でない。論旨は、採用できない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(柏原語六 石坂修一 五鬼上堅磐 横田正俊 田中二郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例